School of Dog?

ブログというより、昔のホームページみたいな……。

草野心平の生涯と詩(福島県いわき市)

草野心平

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain突然だけど、↓の写真は何に見える?

 

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f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain居酒屋……じゃないの?

 なんだかメニューが独特だけど。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainそう、居酒屋なんだ。

 居酒屋なんだけど、ただの居酒屋じゃないんだぞ!

 どの辺がただの居酒屋じゃないか?

 まずひとつに、この居酒屋を経営していたのは詩人なんだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain詩人って居酒屋経営もするのかしら。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainそしてもうひとつ、この写真は実は、その詩人に関する記念館の中で撮ったものなんだ。

 つまり、居酒屋を再現した展示だぞ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain言われてみれば、たしかに奥の壁に説明書きみたいなのがあるわね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainさぁ、その詩人こそ、草野心平だ!

 彼がやったことは詩作だけじゃない。

 宮沢賢治の発見者。

 同人誌の編集者。

 焼き鳥屋・居酒屋・バーの経営者。

 そして、地球上のすべての動植物と一緒に生きていく強い共感性の持ち主。

 いくつもの側面から、草野心平は語られるのだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain草野心平というと、カエルのイメージしかなかったわ。

 ほら、よく国語の教科書に載っている……。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain「春のうた」だよな。

 「ケルルン クック」で有名だ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainなんだか、インパクトに残る詩よね。

 だけど、草野心平を「カエル」の一言で片付けるのはもったいない気がしてきたわ。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainそこで、今回はまず草野心平についてちょっと勉強したあと、実際に福島県いわき市にある草野心平記念文学館に行ってみようと思う!

 

 

草野心平ってどんな人?

草野心平と詩との出会い

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainまずは基本的なところからということで、詩に出会うまでの草野心平の生涯を簡単に追っていこう。

 草野心平は、1903年に今で言う福島県いわき市に生まれた。

 子どもの頃の草野は、超ワンパク!

 本を食いちぎり、鉛筆をかじり、人に噛みつきまくったんだってさ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainどこの小学校にもいるわよね、そういう子。

 そして、そういう子が何か大きなことを成し遂げたりするのよ。

 結局、行動力とか感性って大切な気がするわ。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain素直に家のドアから入らず、家の柱を通ってベランダによじ登り、そこから家に入ったりするやつとかいたよな。

 さて、その後はワンパクっぷりが高じて、旧制中学校の先生に反抗しすぎ、先生を辞めさせるにまで至ったとか。

 先生いびりと成績低下が原因で、草野さんはいわきの学校を辞め、慶應義塾普通部に編入した。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainさらりと慶應に入ったわね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainでも、東京で一緒に暮らしていた両親とそりが合わず、草野さんは中国へ留学に行く。

 その留学先で、草野さんは「詩」と出会うんだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainえ、草野さんの詩って、中国の詩がルーツだったの?

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainいや、草野さんに影響を与えたのは、おそらく日本の詩だよ。

 亡き兄が詩を書いていたノートや、村山槐多(かいた)という詩人(画家)の詩集に感化されたんだ。

 「詩とは面白いものだ。詩は男子一生の仕事としても恥ずかしくないものだ」と考えたらしい。

 

草野心平にまつわるエトセトラ

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainさて、このレベルで詳しく草野心平の生涯を追っていくと大変だから、こっからはさらっと行くよ。

 1928年、カエルにまつわる詩を収めた『第百階級』を出版する。

 だけど、100部刷って注文があったのは3冊だけだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain今は高く評価されているのだろうけど、当時としては無名だったのね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainその後、カエルの詩で草野さんは読売文学賞を受賞したんだけどな。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainえ、すごいじゃない!

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainものすごく飛ばしているから一気に評価されたように見えるけど、この間にいろいろな出来事があったんだよ。

 次に、同人誌の編集者としての草野心平について。

 彼は宮沢賢治らを同人誌に誘い、世間に宮沢の才能を紹介しようとしたんだ。

 また、宮沢が亡くなったあとは未発表の宮沢の詩も含めた宮沢賢治全集を編集した。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainなるほど、今宮沢賢治の詩をたくさん読むことができるのには、草野さんの努力もあるわけね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain文通していただけだから、直接の面識はなかったみたいだけどな。

 だって、草野心平は宮沢賢治のことを、アメリカ式の大農場を経営し、念仏を唱え、ベートーヴェンを聞く人って思っていたくらいだから。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain宮沢賢治の詩だけを読んでいたら、そういう印象になるのかしら。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainさて、最後に焼き鳥屋・居酒屋経営の話な。

 まず、「いわき」という名前の焼き鳥屋を1931年に開店した。

 場所は麻布十番だ。

 この頃の草野さんは、職がなく質屋通いをするほどお金がなかったらしいぞ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain今まで焼き鳥関係の仕事をしていたわけでもないのに焼き鳥屋に挑戦しようとする、その度胸と根性がすごい。

 東京で「いわき」という名前を掲げて勝負することに、勝算があったのかもしれないわね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain朝に近くの鳥屋から鶏の内臓をもらい、腸から黄色いフンをしぼりだして準備をする。

 夕方から焼き鳥を焼き、商売を始めるんだ。

 焼き鳥は1本2銭。

 腰掛けのミカン箱は、当時親交のあった高村光太郎からもらってきたものだという。

 始発電車の音を聞きながらなんとか帰宅する毎日だった。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain厳しい時代ねぇ……。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainその後、出版社の仕事を得たから焼き鳥屋はやめたそうな。

 あとは、居酒屋「火の車」。

 最初に見せた写真が「火の車」を再現したものなんだけど、ここを作ったのはな、読売文学賞をもらった直後だ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainえ、賞金は?

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain10万円と銀時計をもらったらしいけど、すぐに生活費に消えたらしい。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainさっきから切ない話ばかりなんだけど。

 「火の車」という店名も自虐なのかな。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain草野さんは居酒屋「火の車」を、東京都の文京区に作った。

 改めて、下の写真を見てもらおう。

 写真からもわかると思うけど、15人も入れば満員状態だ。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainやっぱり、メニューが独特ね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainメニューはそれぞれこんな意味らしい(小野浩『草野心平―昭和の凸凹を駆け抜けた詩人』より)。

  • 天=特級酒
  • 耳=一級酒
  • 火の車=二級酒
  • 炎=ウィスキー
  • 鬼=焼酎
  • 麦=ビール
  • 泉=ハイボール
  • 息=サイダー
  • 八十八夜=玉露
  • 赤と黒=品川巻き(細長いせんべいにノリをくるっと巻いた、あのおつまみの定番のやつ)
  • 黒と緑=ほうれんそうのおひたしをノリで巻いたもの
  • どろんこ=かつおの塩辛
  • 悪魔のぶつぎり=酢だこ
  • 美人の胴=いたわさ
  • 雑色=おしんこ

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainなんとなく意味が分かるのって、火の車(安いから家計が火の車の人でも飲めるよってこと?)、麦、八十八夜くらいだわ……。

 これって、否が応でも店主である草野さんと会話しないと注文できないシステムね。

 遊び心もあるし、なんだかワタシここの居酒屋に行ってみたいかも!

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainそれは同意だ。

 そして悲報。

 残念ながら、一番気になる「ぴい」の正体がわからなかった。

 ダントツの安さから想像するに、ピーナッツかなぁ。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainもうちょっとアップで撮影したものだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainディティールへのこだわりというか、再現度がすごいわね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainとまぁ、草野心平は本当に波乱万丈な人生を送ってきたわけなんだよな。

 

草野心平の詩、どんな感じなの?

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainここまで、草野心平の生涯を見てきた。

 じゃあ、肝心の詩はどんな感じなのよ?

 そんな声が聞こえてきそうなので、紹介できる範囲で紹介してみようと思う。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainやっぱり、カエルの詩が多いの?

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainいや、そうとも限らないぞ。

 草野心平についてほとんど知らない状態で草野心平記念文学館に行き、詩をいくつか読んだら、「生と死」という雰囲気を強く感じたな。

 教科書的には、「人間生命の賛歌をうたう詩風」って説明されているぞ(浜島書店『常用国語便覧』)。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainマロ先生はどの詩が好き?

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainボクは、「青イ花」って詩が好きだ。

 死の瞬間を切り取った詩だと思う。

 主人公は子ガエル。

 抗えない死への絶対的な諦めと、それでも最期に思い出す母と。

 この子ガエルは今どこにいるのか。

 ヘビの腹の中なのか、三途の川なのか。

 そして、「青イ花」とは何なのか。

 よければぜひ、声に出して読んでみてほしい。

 ゾクっとするから。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain愛が熱い。

 というか、暑い。

 暑苦しい。

 

 トテモキレイナ花。

 イッパイデス。

 イイニオヒ。イッパイ。

 オモイクライ。

 オ母サン。

 ボク。

 カエリマセン。

 沼ノ水口ノ。

 アスコノオモダカノネモトカラ。

 ボク。トンダラ。

 ヘビノ眼ヒカッタ。

 ボクソレカラ。

 忘レチヤッタ。

 オ母サン。

 サヨナラ。

 大キナ青イ花モエテマス。

(草野心平著・角川春樹事務所編(2010)『草野心平詩集』pp.27-28)

 

草野心平記念文学館に行ってみた

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainさて、以上を踏まえた上で草野心平文学記念館に行ってみよう!

 

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain↑の地図からも分かる通り、山の中にある。

 車がないと行くのは厳しいんじゃないだろうか。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainだって、草野心平記念文学館から見える景色、こんな感じだもの。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain随分と田舎……失礼、自然豊かなところにあるわね。

 でも、ここで小さい頃の草野さんは自然を学んだんでしょ!

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainなんだか、草野心平の小さい頃の話を聞くと、灰谷健次郎の『兎の眼』を思い出すんだよなぁ。

 

兎の眼 (角川文庫)

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainこれこれ!

 表紙に写っている少年は鉄三っていうんだけど、ハエを宝物にしているんだ。

 大切なハエを入れているビンに触った同級生の子に対して、骨が見えてしまうほどの大怪我をさせちゃったりするんだけど、他の人にはわからなくてもその人にとって大切なものがある、ということを鉄三に学ばせてもらえるんだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainワタシも読んだことあるわ。

 子どもをテーマにした小説の傑作よね。

 確かに、小さい頃の草野さんは鉄三にも通じる部分があるかもしれないわ。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain展示の方法も凝っている!

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainそう、色々と工夫されているんだけど、押し付けがましくはないんだな。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainこの記念文学館を作った方々が、草野さんを本当に尊敬して、しっかりと研究しているからできることなんでしょうね。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainちなみに、この展示は草野心平がカエルや動物につけた「名前」だ。

 ボクは、先にカエルがいて、後からこいつはケルケ、こいつはギムって名前をつけるわけではないと思う。

 草野心平がケルケって名前をつけてやったから、そこにケルケが生まれるんだ。

 名前がつけられなければ、その他のカエル、あるいはその他の動物、あるいはその他の生命、あるいはその他の物質と同じだからな。

 草野心平が名前をつけることで、そいつは唯一無二の存在として生を授かるんだ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainソシュールだったかしらね、そんなこと言っていたのは。

 スピッツの「名前をつけてやる」っていうすごいアルバムもあるけど、似たような意味があるかも。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain草野心平と草野マサムネ、「草野」つながりだもんな。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain確かに!すごい!(大のスピッツファン)

 そういえば、ずっと昔、スピッツの歌詞は草野心平にも影響を受けているっていうインタビュー記事を読んだことがあるようなないような……。

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainさっきから脱線しまくりだよな、ボクたち。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainこれも、ただの窓ガラスじゃない。

 空に映るように「猛烈な天」という詩が書かれているぞ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plainあ、ホントね!

f:id:school_of_dog:20151105224439j:plain他にも凝った展示がたくさんあった。

 総じて、「草野心平=カエル」という知識くらいしかない人がいきなり行っても、草野心平の持つ自然観・死生観を味わうことができるステキな記念文学館だった。

 一方で、草野心平に対する愛が強すぎる人は、展示方法が凝りすぎていて違和感を覚えたりしないかな、なんてこともちょっと思ったけど……。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224439j:plainちなみに、記念文学館の近くにはキレイな川がある。

 そこには大量の水鳥が泳いでいたよ。

f:id:school_of_dog:20151105224442j:plain小さい頃にこんなに自然豊かな場所で育ったら、一生の土台となる感性が磨かれそうね。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain梅雨になると毎日カエルが家の玄関をふさいでいる。突然飛び跳ねないでくれよな。今度名前をつけてやるから。

 

参考にしたもの

草野心平詩集 (ハルキ文庫)

f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain草野心平著・角川春樹事務所編(2010)『草野心平詩集』角川春樹事務所

→ 草野心平記念文学館のミュージアムショップで買いました。この「ハルキ文庫」シリーズは、ステキな詩がコンパクトにまとまっていて大好きです。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainついでに、しおりも購入。ハサミで切ったのであろうこのガタつく四辺と、鉛筆で書かれた「Shugo ITO」の文字に味を感じますね。

 

草野心平―昭和の凹凸を駆け抜けた詩人 (歴春ふくしま文庫 92)

f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain小野浩(2008)『草野心平―昭和の凹凸を駆け抜けた詩人』歴史春秋社

 草野心平記念文学館の学芸員さんが書いた本。この記事の内容は、ほとんど本書を参考に書きました。草野心平の生涯や、作品ごとの解説などが書かれており、愛を感じます。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainおまけ:マロ先生とカエル。昔、スピッツの「あわ」という曲をイメージして描きました。