School of Dog?

ブログというより、昔のホームページみたいな……。

河村瑞賢「人の成功を喜べる者に、商いの神は微笑む!」/伊東潤『江戸を造った男』

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainこの記事書いたの8月です。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainおや、今日もいい食べっぷりですね。

 どれだけお米食べているんですか。

 私なんて、夏バテ気味だというのに……。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain夏バテ?

 何それ、私生まれてから一回もなったことがないわ。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain……。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainはー!

 これだけ美味しいお米が食べられるのも、農家さんのお陰様々ね。

 感謝、感謝。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainお、今、私の社会科スイッチが入りましたよ。

 もちろん、お米を食べられることについては、農家さんにも感謝しなければなりません。

 ですが、他にも感謝する相手がいることを、お忘れじゃないですか?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainえ?

 「農家の方に失礼だから、残さず食べなさい!」なんて聞くことはあるけど、他はあまり……。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainまぁ、細かく言っちゃえばたくさんあります。

 タネやさんであったり、農機具を作っている会社であったり。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain感謝する相手が多すぎて、なかなかいただきますできない。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainでも、特に忘れられがちなのは、「お米を私の食卓まで運んできてくれた方」への感謝ですよ。

 つまり、物流です。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainあぁー。

 言われてみれば、確かに。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain世界は分業でできています。

 人々が地理的・能力的に得意な作業を分担することによって、私たちは豊かな生活を送れるのです。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainすべてのものを自分だけで作ることなんて、とてもできないからね。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainそして、分業によって作られた成果物は、「運ばれなくては」なりません。

 日本でこの「運ぶ」という制度を本格的に整備したのが、河村瑞賢(かわむらずいけん)です。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain日本史の教科書でちらーっと見たことがある人だ。

 でも、詳しくは扱われないよね。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain今日は、河村瑞賢について見ていきましょう。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain江戸時代初期、人々は地方から江戸に集まってきました。

 こうなってくると、江戸周辺だけでは十分な食糧を確保することができません。

 では、江戸はどうやってその巨大な胃袋を満たしていたのでしょうか?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainそりゃあ、農作物をたくさん収穫できる地方から運ばせていたんじゃないかしら。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainその通りです。

 具体的には、今でいう東北や北陸から、米を運ばせていたわけですね。

 しかし、陸を通って運んでいたのでは、山を越えるのも大変だし、何より重たい。

 そこで、浮力や流れを活用できる海や川を通って物を運ぼうと、こうなるわけです。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain今でも、時間がかかるけど、大量に、かつ安価に物を運ぶためには水運が使われるわね。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainさぁ、このような物を運ぶための航路を整備したのが河村瑞賢です。

 教科書に登場するのは1行だけ。

 「17世紀後半になると、江戸の商人河村瑞賢が、出羽酒田を起点とし江戸に至る東廻り海運・西廻り海運のルートを整備し、江戸と大坂を中心とする全国規模の海上交通網を完成させた」(山川出版社『詳説日本史B』)。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain河村瑞賢の人となりや、彼の成した功績について分かりやすくまとめている本があります。

 伊東潤『江戸を造った男』です。

 

江戸を造った男

江戸を造った男

 

 

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainこれは、時代小説かしら?

 500ページくらいの、分厚い本ね。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain時代小説?

 いえ、この本の正体は、「時代小説の体を取ったビジネス書・自己啓発本」です!

 河村瑞賢(七兵衛)の商人としての活躍を通して、リーダー論・交渉術・プロジェクトマネジメントなどを学べます。

 私なんかは、付箋を貼りながら読んでしまいました。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain『夢をかなえるゾウ』に似たスタイルなのかな。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainあれとは、ずいぶん違いますけどね。

 さて、この小説の中で描かれる七兵衛は、(ネタバレになると嫌なのであまり詳しく書きませんが)数々の苦悩に直面しつつも、折れないで戦い続ける芯の通った男です。

 と同時に、決して驕ることのない優しい男でもあります。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain小説の主人公としては魅力的な設定ね!

 頼りになりそう。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainこの小説、特に前半がめちゃくちゃ面白い。

 エンタテインメントとしても、歴史の勉強としても、ビジネス書としてもオススメです。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain肝心の、航路開拓の話に戻りましょう。

 地図を見ないと分かりづらいかもしれませんが、例えば西廻り航路を整備する前は、酒田(現在の山形県)から次のようなルートで米を運んでいました。

 酒田 → 敦賀・小浜(陸路に切り替え。馬の背に載せて運ぶ) → 琵琶湖(舟に載せる) → 大津(陸路に切り替え) → 大坂で売る → 伊勢(船に載せる) → 江戸で売る。

 (あ、地図を見るついでに、海運について考える時は海流まで考慮に入れないとダメだということをお忘れなく!)

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainこれはものすごくムダの多いルートじゃない?

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainそのせいで、江戸までたどり着く米は少なく、しかも高い。

 江戸の人々は貧しくなっていく一方です。

 そこで、七兵衛は現在の関門海峡を廻って、ずーっと海を通ってくるルートを考えます。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain確かに、遠回りのように見えて、積み替えを何度もしなくていいから楽かもしれない。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainですがこれ、そう簡単なことではありませんよ。

 頑丈な船を造ったり、難所を通ることができる知識・技術のある船手(船の操縦者)を探したり、抜け荷(勝手に船の米を売ってしまうこと)を防止したり、やるべきことはたくさんあります。

 そこを乗り越えるのが七兵衛の商才!

 彼は、若き日から商売を通して培ってきた手腕をいかんなく発揮し、諸制度を整えていくのです。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainかるーいノリで、「今度から、関門海峡の方を通ってよ★」では済まないのね。

 歴史の授業で「西廻り海運を整備した」と聞いてもよく意味が分からなかったけど、これでなんとなく理解できたわ。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainさっきから話を聞いていて、ずっと気になっていたのがさ。

 七兵衛は、いわゆる公務員でも、為政者でもないわけよね。

 なんで、「すべての人がご飯を食べられるように、海運を整備しよう!」なんて公益事業を行ったの?

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainそれは、七兵衛の底に流れている一つの哲学が関係しているのだと思います。

 七兵衛は、作中でこんなことを考えています。

 「人の成功を喜べる者に、商いの神は微笑む。それこそは、七兵衛が長年の経験から会得した真理である」。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainふむふむ。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain以前、何かの本で読んだのですが、誰かが大成功してお金を儲けた時、普通の人は嫉妬してしまうのに対し、七兵衛は大いに喜んだといいます。

 なぜなら、その人が豊かになることで、世の中の金回りが良くなり、巡り巡って七兵衛自身も豊かになるからだ、と説明されていました。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain別に七兵衛は、道徳で公益事業をやっているだけではないということね。

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainこの本を読む限り、七兵衛は人道的な男です。

 ですが、七兵衛が公益事業を行ったのは、何も人道・道徳に拠ってだけではない。

 他者の利益を考えられてこそ、自己の利益も大きくなる。

 一見ドライなように見えて、愛とか道徳を行動原理にしていない七兵衛が、結局人々を幸福にできているところがポイントです。

 これこそが、この作品の軸になっているのだと思いました。

 

 

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f:id:school_of_dog:20151105224443j:plain作中、ある男が七兵衛と商談しながら、次のようなことを言っています。

 「あんたは、新しい商人のあり方を作りつつあるのだ」

 七兵衛は問い返す。

 「新しい商人とは、どういうものですか」

 「目先の利にこだわらず、大局観を持ち、互いの利を考える。また己のためではなく、他人のために役立つ仕事をする。つまり――」

 その男は、顔を近づけてきてこう言った。

 「まだ育っていない鮪(しび)は海に流す。これが漁師の掟だ。その鮪は、大きくなっても自分の手に入ることはない。海はこれほど広いからな。それでも漁師はちいさな鮪は海に返す。だからこそ、海の恵みは絶えないんだ。同じように山になる柿の実も、熟していないうちは誰も取らない。それが熟した時、自分に回ってこなくても構わない。この国の者たちは皆、そうしてきた。

 しかし――、商人だけが目先の利にこだわり、『自分さえよければ、後は知るか』といった考えを持っている。それを、あんたは変えようとしている

f:id:school_of_dog:20151105224443j:plainこれはまさに、「共有地の悲劇」の回避方法ではありませんか。

 もちろん、この作品はフィクションであり、このセリフも作者の創作です。

 ですが、持続可能な社会が本気で議論されている今日、七兵衛から学ぶところは大きいと思いますよ。

 少なくとも、自分が得られる利益を最大化することが目的であるはずの商人・七兵衛が、国全体の人々の幸福を実現しようと奔走したことは事実なのですから。

 

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