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犬も歩けば棒に当たる

豚の解体を見た日本人とドイツ人の反応が違うのはなぜか?②(考察編)/NHK『人間は何を食べてきたか1 肉』

(Let's 考察!)豚の解体を見た日本人とドイツ人の反応が違うのはなぜか?

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f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainこの記事は、前回の続きです。

 前回のあらすじ。

 NHK特集『人間は何を食べてきたか1 肉』を見て、「あれ? 豚が解体されているところを見ている日本人とドイツ人の反応、違いすぎじゃない?」ということが気になりました。

 何でかなー知りたいなー。

 鯖田豊之先生の『肉食の思想』っていう有名な本があるから、これ使ってちょっと考えてみようかなー暇だしー。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain何で最後、幼児退行しているんですか。

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ヨーロッパではどれくらい肉を食べているのか?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainそもそも、ヨーロッパは肉食文化だというけれど、どれくらい肉食文化なんでしょうか。

 量と質の両面から考えてみましょう。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain何か授業みたいですね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainまずは量。

 鯖田さんは、動物性食品依存率*1が、日本は10%以下なのに対し、ヨーロッパの国々は軒並み30~40%、あるいはそれ以上であるというデータを紹介しているわ。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain「カロリー」と言われれば、そのほとんどはおコメかパン、麺類で摂っているイメージ。

 肉でカロリーを、という感覚はないですね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain一方で、穀類・いも類依存率*2を見ると、日本は60~70%なのに対し、ヨーロッパは50%以下の国がほとんど。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainヨーロッパでは、コメや麦を食べないんでしょうかね? 

 何だか、パンとかパスタをたくさん食べているイメージがありますが。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainちなみに、この統計は1956~61年のものです……。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainえ、古っ!

 最近のは?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainちょっと違うかもしれませんが、こんな統計がありました。

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainおもな国の供給栄養量=1人1日あたり、カロリーをどのように摂っているか?(2011年)*3

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain青の部分が穀物、赤の部分が動物……ですか。

 50年前とは大きく異なりますね。

 日本人が、50年前よりもたくさん動物性食料を食べるようになっています。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainグローバル化が進み、輸送技術も発達して、今や世界の至るところで色々な食べ物を手に入れられるようになったからね。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainそれでも、やっぱり動物性食料はドイツの方が多く食べていますね?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainいくらグローバル化が進んでも、数千年の蓄積はそう簡単にひっくり返らないんでしょうか。

 次に、「質」ですね。

 ヨーロッパの西洋料理は「もとの形のはっきりわかるものが、さかんに家庭の食卓にのぼる」のに対し、日本では切り身が出てくるのよね。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain先ほど、動画で見たとおりですね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain鯖田さんは、日本の肉食文化を「ままごと」だと言っているくらいよ*4

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain結局、ヨーロッパは日本とは比べ物にならないほどの量の肉を、しかも原型が残る形で食べている、ということなんですかね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainまさにその通りね*5

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainVTR冒頭で登場する、パリのランジス公益市場。日本で言う築地のような位置づけらしい。見渡す限りの、肉、肉、肉。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain気になったので、GoogleMapで調べてみた。パリ中心街より少し南にRungis marketがたくさんある。どれだ? と思って手始めに一番北のを調べたら、魚の写真ばかり。どうやら、食品ごとに市場が分かれているようだ。

 公式HPで調べると、ようやく市場の中心が分かった。画像検索して。またも現る肉、肉、肉。ここすごいなぁ。ちょっと行ってみたい。

 公式HP「子牛の頭を丸ごと、脳みそや舌、皮とほお肉込みで買う顧客もいる。子牛の頭を半分に切り、舌半分を顔の皮半分で巻いて網に入れる料理がメジャーだ。ベテランの職人は見事に2分ほどで1つの頭をさばく」

  

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain西ドイツの肉屋。ソーセージが並ぶが、断面が芸術的でまるで海苔巻きだ。文化の蓄積を感じる。

 

量について:なぜヨーロッパでは「肉」で、日本では「コメ」なのか?

ヨーロッパが「肉」な理由

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain肉ってぜいたくなイメージがありますよね。

 肉だけでそんなにカロリーを取るってのは、ものすごい贅沢なことなんじゃないですか?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain確かに、日本では肉は贅沢かもしれないわね。

 でも、それは、限られた土地を「わざわざ」畜産用の飼料栽培に割くからよ。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain昔、畜産を少し調べに行ったことがあるんですが、外国産飼料が高くなったことから日本で飼料を作る人が多くなり、大変だって聞きました。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain一方で、鯖田さんは、あの有名な和辻哲郎の『風土』から、こんな一節を持ってきているわ。

 「ヨーロッパには雑草がない」*6

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainへぇ!

 どういう意味なんでしょう?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain雑草というのは、人間にとって何の役にも立たない草のことよね。

 日本でそこらに生えている草というのは、まさしく雑草。

 でも、ヨーロッパに生えている草は雑草じゃないのよ。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain何が違うのかな?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainヨーロッパでそこらへんに生えている草は、家畜が食べることができるという意味で、役に立たない「雑」草ではないの。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainえ、日本の雑草と何が違うんですか?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainキーワードは「草の固さ」と「気候」。

 家畜は、固い草と柔らかい草、どっちが好きだと思う?

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainうーん、そりゃあ柔らかい草、ですかね?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainええ。

 実は、日本とヨーロッパでは、日本の方が草が固いのよ。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain考えたこともなかった。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain日本とヨーロッパの雨温図を比べれば、気候の違いは一目瞭然。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain東京とベルリンの雨温図*7

 

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain日本の方が気温が高くて、降水量が多いですね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainヨーロッパは、湿潤でも、温暖でもないから植物が育ちにくい。

 だからこそ、家畜が食べられないほど草が固く・太くならないんですって。

 「ヨーロッパで家畜を飼うのは、日本とちがって、すこしも面倒なことではない。

 極端ないい方をすれば、家畜はほっておいても大きくなる」

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainうーん、なんとなくヨーロッパで肉食が根付いた理由がわかった気がします。

 

ヨーロッパが穀類じゃない理由

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain今度は、ヨーロッパが穀類を食べない理由ね。

 さっき、ヨーロッパといえばパンやパスタみたいな、小麦製品を想像するって言っていたけど?

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain少なくとも、コメというイメージはないですね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainコメの栽培には、成長期に3ヶ月以上20℃を超すことと、年間で降水量が1,000mmを超すことが必要。

 アジアの地理を勉強する時に、年間降水量1,000mm以上で稲作、未満で畑作を行う、なんて覚えた記憶があるわね。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainじゃあ、やっぱり麦なんですね?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain穀物としては、そうなるみたいね。

 さて、ここで注意点。

 おんなじ土地で作物を作り続けると、土地がやせてしまって、収量が減るわ。

 化学肥料がない時代は、麦作は場所によってはうまくいかなかったでしょうね。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainそれは、日本の稲作も同じでは?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain日本の稲作は、(山、川を通ってくる)自然の用水の中に栄養が入っているから、そんなに土地が痩せることはないみたい。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainあ、そうか!

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain今までの話を図にまとめると、次のような感じになる。

 

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f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain鯖田さんも、NHKも、同じことを言っているわね。

 鯖田「ヨーロッパ人の肉食率が高いのは、考え方によっては、けっしてかれらがめぐまれていたためではない。風土的条件が、かれらに穀物で満腹することを許さなかったのである。穀物であれ、畜産物であれ、主食・副食の別なしに口にすることが、かれらの生きる唯一の道だったのである」*8

 NHK「今日本では、肉食は美食の象徴のように言われています。しかし、ヨーロッパで肉は、厳しい風土がもたらした、人間が生きるためのギリギリの食べ物でした」

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainNHKは取材に行く前に、肉食に関する名著である『肉食の思想』の本を読んでいっているはず。

 

結論①

 ヨーロッパで肉を食べ、穀類をあまり食べないのは、少雨で湿度が高くなく、夏に気温が上がりきらないためです。このような気候は草を成長させすぎないので、家畜の飼料を得るのが簡単。一方で、雨が少ないと栄養がたっぷり入った自然の用水が手に入りづらく、穀物の栽培が難しいようです。

 

質について:なぜヨーロッパでは、原型が残った肉を食べるのか?

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f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain上の画像は、NHKが紹介したパリのレストランの厨房。

 何かの脳かしら?

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainびっくりしました。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainダックス先生、こういうの食べられる?

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainや、ごめんなさい無理です……。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainじゃあ、次はその直後のシーン。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainあ、今度はただの肉(ただの肉って何だ?)か。これなら日本でも見慣れているから大丈夫だぞ。そう思いきや。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainシェフがこの肉を二つ折りにする。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainあ、頭だった……。

 

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainいや、だからびっくりするって!

 大丈夫かな?

 ちゃんとした勉強目的でやっているブログなんだけど、R-15指定されない?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainそしたら、NHKのDVD自体がR-15になっているでしょ。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainそれにしても、ヨーロッパの「ガチ肉食文化」には本当に驚かされますね。

 これが日本なら、えらいことになりかねません。

 道徳的バッシングが来そう。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainいえ、ヨーロッパにも動物愛護団体はあるのよ。

 だってほら、「小鳥くらいならかじる」と言った日本人が顰蹙を買った話をしたじゃない?

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainああ、そういえば。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain鯖田さんは、ヨーロッパに動物愛護と動物屠畜が両立していることに興味を示しているわ。

 曰く、日本とヨーロッパでは「残酷」の示すものが違うのだそう。

 日本では、殺すことが残酷。

 ヨーロッパでは、殺すことは必ずしも残酷ではなく、苦痛を与えて殺すことが残酷。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainつまり、「小鳥をかじる」のは、小鳥に痛みが伴うから残酷と、そういうことになるんですか?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainそういうことだと思う。

 じゃあ、なぜ「殺す」こと自体は残酷じゃないのか?

 人間に似ている部分が多い家畜を殺すことを、私たち日本人は残酷だと思っているわ。

 でも、キリスト教は「人間がすべての動物の支配者である」ということを明示しているの*9

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainなるほど。

 人間≧動物では殺しづらいけど、はっきり人間>(聖書による超えられない壁)>動物としてしまえば、殺すことに抵抗感は生じづらいんですね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain私はクリスチャンじゃないからよくわからないけどね。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainビュットナー家でソーセージを作った日の会食。何気ないシーンだが、矢印で示した通り、キリスト教が当たり前のように生活に溶け込む。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plainユダヤ人専門の肉屋の店員は、次のように語る。

 

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f:id:school_of_dog:20150803102459p:plain鯖田さんの説明に合致している。

 

結論②

 ヨーロッパで原形の残る肉を食べたり、家畜を「潰す」ことに対する心理的抵抗が小さいのは、ユダヤ教・キリスト教が育んできた宗教観・思想観と深く関係していそうです。

 

結局、豚の解体を見た日本人とドイツ人の反応が違うのはなぜ?

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plainさて、想定していたより長い記事になってしまったわけですが。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plainNHKの日本人Dと、ドイツ人の少女の反応が違う理由を考えてきたんですよね。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain結論としては、気候・環境と宗教が違うからということになりそうね。

f:id:school_of_dog:20151105224444j:plain色々と考えてきた割には、予想していたとおりの答えでした。

 でも、宗教ももしかしたら気候・環境の中で生み出されたものなんじゃないのかな、ということも感じるわけです。

f:id:school_of_dog:20151105224445j:plain気候・環境が思想とか文化を作っていくのね。

 このシリーズ、疲れるけど勉強になるから、続けていきたいわ。

 

 

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*1:私たちが摂取する総カロリーのうち、動物由来の食品は何%を占めるか?

*2:総カロリーのうち、コメ・麦・いもなどは何%を占めるか?

*3:帝国書院『地理データファイル2016年度版』より。画像作成にはグラフジェネレーター<http://chachart.net/pie-chart/>を使用。

*4:この記事では詳しく書かないが、鯖田は単に肉食文化を紹介しているだけではない。日本の近代化はヨーロッパ化の形で進められてきたが、ヨーロッパから日本に輸出されたものと、輸出不可能だったものがある。ここまで紹介してきたようなガチガチの肉食文化は、輸出不可能な文化だ。その境界線は何か。なぜ輸出可能なものと輸出不可能なものがあるのか。このあたりを、人々の思想の土台を形作っている「食」という切り口から検討していくこと、ひいては日本人とは何か、ヨーロッパ人とは何かを考えていくこと。本来の鯖田の目的である(と理解している)。非常にかいつまんだ紹介になってしまい、鯖田さんには申し訳ない限りである。私の力量の限界だ!

*5:別に、鯖田さんは、日本よりもヨーロッパの方が食文化が優れているみたいなお話をしているわけではない。客観的な分析をしているに過ぎない。

*6:厳密には、和辻哲郎がイタリアの風土を調べに行った時、同行していた農業経済学者の大槻教授に教えてもらった言葉。

*7:「学習塾ノックス」<http://www.nocs.cc>より。

*8:p.36

*9:例えば、馬。ヨーロッパにおいて馬を所有していることは、社会的ステータスとなった。しかし、馬はその役目を果たせなくなったら、いとも簡単に捨てられるのである。"Go to the dogs."とは"落ちぶれる"という意味の慣用句だが、かつての愛馬が簡単に猟犬の餌にされる様子を表したものではないかと言われている。その背景には、やはりキリスト教がある。「聖書は、神によって人のためにつくられた動物を支配する権利を人間に与えた」。「伝統的なキリスト教の神学的見解には、動物を思いやる姿勢はなんら見られ」ない。(ブライアン・フェイガン著・東郷えりか訳『人類と家畜の世界史』)